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時空を超えて人の生き方を見つめる壮大な物語『イモータル』【読書屋!】

人の行き方をどうも、ケスイケリーガです。

萩耿介『イモータル』をご紹介します!哲学や宗教、歴史の知識教養を小説内に散りばめられ、小説の世界にぐいぐい引き込まれます。

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ざっくりあらすじと感想

主人公は兄をインドで亡くし、日本で不動産業を務める男。仕事に自信がなくうまくいかない日々を過ごしている中、兄が残していった『智慧の書』と呼ばれる本に引き寄せられて時空を超えた男の旅が始まる。

  

小説の物語は現代日本、ムガル帝国時代のインド、フランス革命期のパリと舞台を変えていく。

高校生の頃に習った世界史のイベントが沢山でてきてちょっとワクワクします。

ムガル帝国の皇子が書きあげた『智慧の書』がフランス革命期のパリで翻訳され、現代の日本に渡ります。兄がインドでどのようにしてなくなったかを明確にするため『智慧の書』に導かれる主人公。

 

この小説の特異なところは、全く関係のないはずの現代日本とムガル帝国時代のインド、フランス革命期のパリが『智慧の書』という一冊の本を巡り物語が繋がっていくことだ。哲学・宗教を驚くほどの繋がりを持たせ場所・時代を越えて一つの物語として構成している。知識・教養レベルの高さを散りばめているにもかかわらずストーリーが面白いが故にページをめくるスピードは軽快だろう。

 

どの時代にも『智慧の書』が書かれたこと、翻訳されたこと、存在することの意味を信じる男たちがおり、彼らの時代も環境も異なるにも関わらず、彼らはその本が記す内容に魅せられる。

それは、人間が生きる意味、この世が存在する意味、そしてそれらの関係性を記し、人間が日々のつまらぬことに執着することがそもそも間違っていると説く。

だが、彼らはその時代に辛酸を舐める立場の人間であり、『智慧の書』に記載されていることが崇高なものとわかっているが、周りの人間たちの理解は得られず苦渋の中を生きるという共通点がある。

『智慧の書』の謎を追い兄の死因を追求するために時空を超えた壮大な物語です。

 

この小説のテーマ 

私たちが社会で生きる時、絶対的に正しいと思うことでも他者にとってはそうでないということが往々にしてある。

他人の価値観や考え方とどう関係を築くかは社会の中で生きる際に重要な要素となる。

 

その価値観のぶつかり合いに頭を悩ませることは多い。

 

それを価値観が違うから、立場が違うから、と分かり合うことに妥協してしまうのは容易だが、最後までその価値観を貫き通しいかなる相手にも屈しないことは容易ではない

しかも、それがマイノリティだった場合、なおさらのことである。

  

この作品はそんな思いを持つ人々が『智慧の書』という支えのもと、価値観を貫きとおしていく。

"ルソーは読んでいるだろう。覚えている言葉がひとつある。『下劣な人間は偉大な人物の存在を信じない、卑しい奴隷は自由という言葉を聞いてもせせら笑う』。意味するところはわかるだろう。本当の自由というものがいかに理解されにくいか。"

周りには理解されなくとも貫き通すべき信念を貫き続けた男たちの時代を越えた物語を読んでみてはいかがだろうか。それではグッバイ!

 

 

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