すべては崩壊へのストラテジーか!芥川賞受賞作、沼田真佑『影裏』【読書屋!】
どうも、ケスイケリーガです
2017年7月に決定した芥川賞受賞作『影裏』の紹介です!
文庫本が発売されたので買って読んでみました
ざっくりあらすじと感想
主人公の今野とその同僚の日浅が岩手の地で出会い、3月11日東北大震災までを描いた小説。
主人公の今野は岩手へと転勤となり、そこで出会った日浅と意気投合する
釣りやお酒の趣味が合ったことで親密な関係となっていった。
日浅はどんな奴かというと、「巨大なものの崩壊に陶酔する」という嗜好があった
例えば、数軒が焼失するような火事には興味を示さないが、山林が焼失するような山火事があると現場に見に行ったり、川沿いの巨木が倒れていたらその巨木を隈なく観察したり、そういう嗜好があった
今野にとって日浅は岩手の地で唯一親密な関係を築くことのできた相手で釣りや酒で一緒に過ごせる相手だった
しかし、ある日、日浅は退職することとなる
私用の携帯を持たない日浅とは会社でのコミュニケーションによって、休日の予定を合わせたりしていたため、連絡が取れなくなってしまったことに今野は気づく
数ヶ月後、日浅と再会することができた際に、日浅は互助会の会員加入のための営業の職に就いていた
このときは、営業成績がよかったが、のちに営業成績が振るわず、今野に互助会への加入を依頼してくる
今野は親密な日浅のお願いということもあり、承諾して一件落着かと安じる。
そして、3.11東北大震災の日を迎える
その後、同僚から日浅が死んだかもしれないという連絡がはいる
今野は日浅のよく行っていた飲み屋などに聞き込みをするが、最近日浅を見たというものはいなかった
日浅の実家を訪ねると日浅はすでに勘当されており日浅の父から日浅の過去が明かされる。
日浅の勤めていた会社からは、日浅は3月11日は休日だったが営業ノルマ達成のために海沿いの街で営業していただろうということだった
大きな揺れと津波を前にして、日浅は逃げることなく、「巨大なものの崩壊に陶酔」していただろうと今野は想像する。
全てが崩壊への予兆を示している構造になっている
冒頭の日浅の嗜好「巨大なものの崩壊に陶酔」がキーワード
日浅と今野の懇ろな関係も崩壊していくし、日浅の互助会の営業成績も崩壊していく
最も大きな崩壊として東北大震災が登場する
盛者必衰ではないけれど、うまくいっているものは全て崩壊への予兆として描かれる
その崩壊へのストラテジーが繊細に描かれ、どこか色褪せた思い出のような印象を読者に抱かせる。
芥川賞の受賞も頷けるよい小説です。
オススメです、グッバイ!
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